世界の安宿で・インドネシアバリ島ウブド「サヨン・ハウス（Sayong House）」 : コイワカメラの「世界の路地裏で（または女たち）」

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80年代から90年代前半までのバリ島の芸術村であったウブドはまだ「バリ幻想」を彷彿とさせるかのような佇まいを残した静かな「村」だった。

メイン・ストリートの「モンキー・フォレスト・ロード」は当時まだ砂利道のままで、数少ない上質の料理を食べさせてくれた（今は無き）「カフェ・ワヤン」ではキャンドルの灯りのみで食事をしたものだった。

点在する店もバリ島風情の小さな個人商店ばかりで、チェーン店などはその概念さえ無かったほどだ。

夜、食事を終えて宿に帰る道すがらには街灯などあるはずも無く、多くの観光客は宿で貸してくれる懐中電灯を手にその道のりを行き来したものだった。

その後僕の興味はインドネシアから他の国に移り、この地に赴く事は16年間も無かったが、その間に聞かされる情報は「大々的な開発が行なわれた」とか「道がほぼ舗装された」とか「チェーン店が進出してきた」とか。

終いにはJTBが日本人観光客用に走らせているツアー・バス「ウブドくん」が運航されたと聞いて「終わったな」と思った。

その後の僕自身の旅のテーマの中に「ツーリング」が加わると、交通規制の緩さと（日本発効の国際免許も持っていくけど）簡単に地元の免許を取得できる気軽さからまたバリ島に赴く事になり久々に訪れたウブドはやはり思っていた以上に観光地化されて、僕自身は「バリ島の原宿」と感じたほどだ。

その昔は田んぼのあぜ道のような道を伝って赴いた「ロスメン（ミニ・ホテル）」も今や乱立する建物の影にたたずみ、「バリ島幻想」などこれっぽっちも感じられない「路地裏の安宿」風情な情況になっている。

宿周辺を取り巻く環境は変われどバリ人のホスピタリティーは相も変わらず高く、敷地の中は絶えず綺麗に保たれ、朝食もしっかりしたものが供され、入り組んだ路地裏にありながらも（小さいながらも）プール付きってのは海の無いバリ島内陸部ではうれしい付加だ。

バリ島は「クタ」以外の場所では宿にはずれが無い。

ウブドのこの宿もいい宿だったが、ウブドの街自体が僕が求める場所では無くなってしまった。

僕自身は「ロハス」を信仰しているわけでは無いが、バリ島では少しでも「バリ幻想」に近い場所で過ごしたい。

そのためにはよりマイナーな場所に赴かなければならなくなったが、この地ではバイクと言う足があるから今は構わない。

それは「シデメン」や「トゥボラ」だったり「ティブビユ」や「スラット」「マンギス」だったり。

僕はもうウブドには特別な事が無い限り赴く事が無いだろう。